映画「キングスマン」のレビュー・評価/戸川利郎

◇キングスマン(英)(2015年)

「007」シリーズなど、過去の様々なスパイ映画のパロディーを盛り込んだアクションだが、本家のほとんどより、こちらの方が面白い。強烈な毒を含んだブラック・コメディーでもある。

高級テーラーが並ぶロンドンの中心地サヴィル・ロウ。洋服店「キングスマン」の仕立て職人ハリー(コリン・ファース)は、どの国にも属さない諜報(ちょうほう)機関のスパイという裏の顔を持つ。彼は新人(タロン・エガートン)をスカウトしてスパイに育てる一方、IT富豪(サミュエル・L・ジャクソン)の陰謀に立ち向かう。

主人公の名は、この作品にも出演しているマイケル・ケインのスパイ映画ハリー・パーマー・シリーズから。サヴィル・ロウは007のボンドが背広を仕立てる地。設定の一つひとつが細かいところまで遊びになっている。ナイフが飛び出る靴や、弾丸よけの傘などの秘密兵器も、スパイものがシリアスになる中で消えていった楽しさが復活したようで、心が躍る。

一方でアクションは進化を見せる。最大の見どころは、ハリーが教会で数十人と戦う場面だろう。監督・脚本はマシュー・ヴォーン。彼が「キック・アス」で世界中を驚かせたラストのアクションを、さらに複雑化し、様々な格闘技も取り入れてスケールアップさせている。刀の義足で戦う美女(ソフィア・ブテラ)のアクロバチックな動きや、爆発する人間の頭を花火のように描く演出も見事だ。漫画的な表現が残酷をユーモアに変えつつ、毒も失っていない。2時間9分。


戸川利郎